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「ちがいを ちからに 変える街。 渋谷区」から考える、LGBTQを含めた誰もが利用しやすい行政・福祉サービスとは?

本記事は、2021年12月14日に開催した、LGBTQフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリアセンター」のオープニングイベントの報告記事です。

本記事は、2021年12月14日に開催した、LGBTQフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリアセンター」のオープニングイベントの報告記事です。
事業所開所の背景などは前半の記事からご覧いただけます。

 

 

藥師さん:
私たちは、LGBTQフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリアセンター」を、「ちがいを ちからに 変える街。 渋谷区」に設立できたことを嬉しく思っています。この場所から、誰もが自分らしく働き・生きられる未来を創るためにも、「誰もが利用しやすい行政・福祉サービスについて考える」をテーマに、トークセッションをしていきたいと思います。
本日は、渋谷区長の長谷部健さんにいらしていただいています。ありがとうございます。
ここからは、事務局長の中島潤がモデレーターを務めます。

中島さん:
モデレーターを務めます、中島です。改めて、長谷部区長、本日はありがとうございます。渋谷区とReBitのつながりといいますと、これまでも、LGBTQを含めた様々な人の「自分らしくはたらく」を応援するキャリアフォーラムにご後援をいただいたり、キャリア支援のイベントをさせていただいたりと、協働させていただきまして、ありがとうございます。今回も渋谷区でこの事業所を開所できること、とてもありがたく、嬉しく思っています。

長谷部区長:
開所、おめでとうございます。このダイバーシティキャリアセンターが、ここ渋谷区ではじまるということは本当に嬉しいと思います。私自身、長らくNPOの運営をしてきましたが、NPOの仕事は、行政の手が届かないところへ隙間を埋めていくことが求められていると思います。渋谷区としても認定NPO法人ReBitと協業できることは、心強くありがたく思っています。まあ、他の地域にいたらダメということではないけれど(笑)、地域の課題が見えやすいと思うので、これからも一緒に取り組めたらなと思っています。

中島さん:
「ちがいをちからに変えるまち」というフレーズも、共感するところが多々あります。長らくダイバーシティやLGBTQ、障害福祉の取り組みをされていますが、お取り組みについて教えていただけますでしょうか。
 
 

長谷部区長:
簡単ですがお話しをさせていただきます。「ちがいをちからに変える街」というのが渋谷区の基本構想となっています。基本構想は、それぞれ自治体がもっているものですが、政策の最上位概念となっています。多様性、ダイバーシティ&インクルージョンを多分に意識した基本構想となっています。2040年くらいの未来を見据えてつくった標語です。
基本構想は全部で7つの分野に分けられていて、教育、福祉、子育てなどさまざまな分野があります。それぞれのテーマがあるのですが、それを実現すると、「ちがいをちからに変える街」になるという設計になっています。全ての施策、計画、予算等がこの基本構想の傘の下で成り立っています。福祉は「あらゆる人が、自分らしく生きられる街へ」がテーマとなっていて、ダイバーシティを重要視しています。

行政の課題は、なかなか行政単体では解決するのが難しいので、渋谷区では「シブヤソーシャルアクションパートナー協定」といって、区内の企業・大学・法人等と協定を結んで、連携して課題に取り組んでいます。すでに多くの企業や法人と連携を進めています。

私が区長になった2015年に「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を施行し、戸籍上同性のカップルに対して「パートナーシップ証明書」を発行しています。この先、この条例をもっと進化させたいと思っていて、ダイバーシティキャリアセンターのような重層的、複数の特性や障害がある人のことも考え、人権の観点から課題に取り組んでいきたいと思っています。また、パートナーシップ制度がある自治体は2021年9月30日時点で、全国で130自治体、交付件数は2277組となっています。なお、東京都もパートナーシップ制度に関する検討を始めるとのことです。そうなると、人口の大部分を占める状況になり、LGBTQへの取り組みをしている自治体自体がマイノリティではないと感じているところです。

障害者に対する雇用についても、積極的に取り組んでいます。障害者雇用促進法の法定雇用率には含まれない「週20時間未満の雇用」を「超短時間雇用(ショートタイム JOB)」と位置づけ、障害の特性や個々の状況に応じて多様な働き方を選択できるよう、新たな仕組みづくりを試行しています。また、シブヤフォントという、渋谷でくらし・はたらく障害がある人たちが描いた文字や絵を、渋谷でまなぶ専門学校生やプロのデザイナーと連携して、フォントやパターンとしてデザインする取り組みです。渋谷区の名刺もこのシブヤフォントを使用していますが、これらのデザインの使用料は、障害福祉施設にお支払いをされ、障害がある人たちの収入へとつながります。例えば、タケオキクチのスーツの裏地に、シブヤフォントのデザインが使われたりもしていますし、渋谷区内の工事現場に掲げられたりもしています。このように、区だけではなく、民間の力とともによりクリエイティブに取り組んで、課題を解決するサイクルを創ってつくっています。いろんな人たちと連携し、渋谷区のリソースを共有し、さらにいいサービスを創っていきたいと考えているので、DCCも大いに期待をしていますし、助けて欲しいと思っています。
 

重層的支援を進め、誰もが暮らしやすい地域づくりのためにできること

 
中島さん:
ありがとうございます。シブヤフォントの取り組みとても素敵ですね。デザインの力を通じて日常にダイバーシティを波及していくことができる、短時間雇用の取り組みも自分の街で働けることはとても素敵な取り組みですね。
本事業は、さまざまな違いがある人たちも自分らしく働けることを願って、LGBTQで障害がある人たちなど、複合的マイノリティも安心安全に福祉が利用できるようにと願って、開所しています。渋谷区は障害福祉計画基本の理念に「誰もがじぶんらしく暮らせるまち しぶや」を掲げていますが、障害者のなかには複合的マイノリティもいらっしゃると思います。また、先ほど藥師からも、「重層的支援体制整備事業」についての話がありましたが、複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築する必要性は、ますます高まっていますよね。こういった複合的マイノリティならびに、包括的な支援体制の構築にむけ、今後渋谷区ではどのような展望をお持ちですか?

 
 

長谷部区長:
重層的支援は渋谷区としても、取り組まなければならないことです。また、渋谷区のなかでも、初台エリアにきてくれたことはとても嬉しい。この付近は住民も多く、また古くから住んでいる方も多く、木密エリアとも呼ばれ、高齢化や空き家問題など、都市が抱える課題がぎゅっとつまったエリアでもあります。この地域で重層的支援を考えるとたくさんの課題・実例が埋もれていると思います。区も包括支援センターなどで情報の掘り起こしを行なっていきますが、区だけでは掬い上げられない情報をダイバーシティキャリアセンター拾い可視化することで、誰も取りこぼさずに、誰もが暮らしやすい街になることを目指していきたいですし、心強く思っています。

藥師さん:
重層的支援の話も出ましたが、2021年より厚生労働省が推進する「重層的支援体制整備事業」は、複雑・複合的な課題や狭間のニーズへの対応を進めようという取り組みです。子ども・障がい・高齢・生活困窮といった分野別の支援体制の包摂について議論が進むことは素晴らしい一方で、LGBTQをはじめとしたさまざまなマイノリティに関する議論はまさにこれからであり、全国的にもLGBTQを包摂したモデルケースはない、もしくは少ないと懸念しています。LGBTQの課題やダイバーシティに先駆的に取り組んでこられた渋谷区が進める重層的支援体制整備事業のなかに、LGBTQをはじめとしたさまざまなマイノリティも仲間に入れていただけるとありがたいです。そうすることで、福祉サービスにLGBTQをはじめ、複合的マイノリティの方々もアクセスしやすくなるのではと考えています。また例えば、障害福祉サービスであるダイバーシティキャリアセンターを障害がないLGBTQの人たちも使えるようになったりと、地域のリソースがより有効に活用できるのではと考えています。

 

トランスジェンダーかつ発達障害であることで働きづらさ・相談しづらさを経験。でもそれは、多くの方々のストーリーでもありました

 
中島さん:
行政のみなさまが目を向けてくれているというメッセージ自体が、暮らすマイノリティにとっても心強いと感じました。ReBitとしても複合的マイノリティも安心・安全に利用できる福祉サービスが増えることを願っていますが、改めて、開所への想いを教えてください。

藥師さん:
このセンターを立ち上げた背景には、私自身の経験があります。私自身、トランスジェンダーでかつ発達障害(ADHD)がありますが、新卒入社した企業では、トランスジェンダーであることは伝えられていたのですが、発達障害であることは伝えられていませんでした。ADHDの特性で、いわゆるケアレスミスのようなことが生じた際に上司に「やる気ないの?もっと頑張らないと、今後LGBTQの人を採用できなくなるよ」と冗談混じりではありますが言われたり、トランスジェンダーであることを周囲に勝手にアウティング(暴露)されたりと、さまざまな状況が重なるなかで、心身に不調をきたして休職・退職をした経験があります。その際に、自分が安心して利用できる福祉サービスや、相談できる場所がひとつもないように感じました。心身不調の状況のなか、福祉サービスにアクセスして「トランスジェンダーなんです」と伝えて、否定されたりハラスメントを受けたらもう耐えられないなと思って、どこの門戸もたたけず、セーフティーネットがないんだなと感じてしまいました。

 
 

その後、キャリアコンサルタントの国家資格を取得しLGBTQのキャリア支援を始めると、このストーリーは私だけではなく、多くのLGBTQの人たちのストーリーであることを知ります。「LGBTQで精神障害があるんですけど、そんな私は働けないでしょうか」「LGBTQで発達障害なんていったら、どこにも雇ってもらえないでしょうか」などたくさんのご相談をいただきました。その際に、地域の福祉サービスをリファー(情報提供)させていただくこともあったのですが、場合によっては、「トイレが男女別なので、他の人たちにご迷惑になるのでちょっと..」とか「他の利用者さんがどう思われるか心配なので..」とか「スーツ必着なので、毎日スーツ着てこれるのであれば..」など、利用を拒まれたりやアクセスしづらい条件提示を受けた経験もあります。このような状況のなかで「福祉さえでも受け入れてもらえないのか」と絶望して、自死をした仲間たちもいます。このように、セーフティーネットであるはずの福祉を安心安全に利用できないことは、自死につながることを肌身に感じ、誰もが安全安心に福祉サービスを利用でき、自分らしく生きられる一助になれたらとか願って、このセンターを開所しました。

 

トランスジェンダーかつ福祉従事者として、目の前で困っている当事者がいるのに、その機関で何もできないということにもどかしさを感じてきました

 

中島さん:
自分がつかえる福祉サービスがあるとわかることが、希望につながるんでないかということを感じますし、その場所が自分の街にあることも励まされることにつながるのではと思います。続いて、支援者として、複合的マイノリティというテーマに取り組む意義を、福祉や支援者の視点からどのように捉えられていますか?

石倉さん:
支援者一人一人、そして、支援者/機関のネットワークの中で複合的マイノリティについて認知が深まることは、安心して利用できる体制の構築に繋がります。福祉はすべての人にとって平等にアクセスできるセーフティーネットであるべきだと考えています。でも、支援者が知らないことで支援体制が構築されておらず、支援ができないという現状を目の当たりにしてきました。私自身、トランスジェンダー男性ですが、一人の当事者として、福祉支援者として、目の前の現場で困っている当事者がいるのに、その機関で何もできないということにもどかしさを感じてきました。渋谷区、そして区内の支援機関/支援者のみなさまと連携をさせていただきながら解決していきたいと考えています。

 
 

中島さん:
ぜひ、区内のみなさまと連携しながら取り組んでいきたいですね。このダイバーシティキャリアセンターの取り組みも、良いモデルケースのひとつとなれるように邁進してまいりたいと思っていますが、今後のReBitへの期待、ならびに渋谷区における福祉の未来について、ぜひメッセージをお願いします。

 

まず、複合的な課題や困難が重なっている現実を、多くの人たちに知ってもらうことが重要

 

長谷部区長:
まず、複合的な課題や困難が重なっているという現実を多くの人たちに知ってもらうことが重要だと感じました。一人ひとりの悩みも、必要なサポートも多様だからこそ、研究研鑽しながら進めていく必要があるんだなということを、改めて話をきくなかでわかりました。区としてもこの分野にも取り組んでいきたいし、サポートをしていきたいと思っています。困っている人たちが大勢いるので、一矢を報いるような取り組みになることを期待しています。

中島さん:
ダイバーシティやLGBTQ、障害福祉と、自治体としての先駆的取り組みを発信し続けてきた渋谷区、そして区内の事業者のみなさんと連携させていただきながら、このダイバーシティキャリアセンターもひとつのモデルとなれるよう取り組んでいけたらと思います。長谷部区長、本日はありがとうございました。

 
 

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